テニスの選手は、ラケットを持つ腕が長くなるという話を聞いたことがあります。
そのようなことは起こりえることだとおもいますが、これは歪みなのでしょうか。
歪みと言った場合には、肉体的な不都合を伴う意味合いがあると思います。歪みが原因になって、痛みなどの症状が発生しているといった具合にです。
しかし、もしもその歪みが、その人の仕事や生活に良い影響を与えているかも知れない場合には、どうなのでしょう。
ラケットを持っている腕が、反対側より長いという理由で、矯正すべきなのでしょうか。難しいテーマだと思います。
先日、音楽家の方が治療にお見えになりました。
身体を観察したところ、楽器を演奏していることにともなう、独特の歪みがあるのですが、お見えになった理由は追突事故による背部症状なのです。歪みは事故以前からあるでしょうし、事故以前はなんの自覚症状もなかったとすれば、見つけ出した歪みを、板金をするかのように修正することにためらいを感じます。
何故かというと、修正することで、楽器が弾きにく感じる可能性があるからです。
世間では、歪みは悪いもので、治すべきという短絡的発想が主ですが、そんな単純なものではないと考えています。
病気を原因から細かく分類し、診断することは大切かもしれませんが、現実的な治療選択枝からみれば、あまり意味がありません。
どんな病名であっても、その結果行う治療が同じなら、同じ治療をするものとして一つくくりにできます。
例えば、椎間板ヘルニアの場合、治療の選択枝を大きく分類すれば、手術をするかしないかです。
手術をする例は全体の中のごく一部であり、他は手術をしない保存的療法ということになります。
保存的療法の場合に、一般的に行われているのは、神経ブロックや温熱牽引などの理学療法です。
そして、神経ブロックはある期間に限定して行われることが一般的なので、手術しないものは温めたり牽引したりするだけなのが現実です。
これは、脊椎管狭窄症だとか、すべり症だとか、他の病気でもほぼ同じような構図です。
おおまかな治療法から病名をくくると、案外シンプルなのですね。
鍼灸に腰痛の治療を受けに来た方がよく言います。
「私の症状は椎間板ヘルニアなのではないでしょうか?」
「それは、病院で検査を受けていただかなければはっきりいたしません。しかし、仮にヘルニアであったとしても、治療の選択枝は今と変りません。日常に差し支えない程度の場合には、ヘルニアであっても手術になる可能性は低いからです。
今と治療法が変らないとしたら、検査ではっきりさせることに、現実的な意味があるでしょうか?」
余談ですが、そもそも私は、腰痛や下肢のしびれ症状と、椎間板ヘルニアとの関連性は、実はあまり関係ないという考えに賛同しています。
妊娠初期の脈というのは、風邪の脈にもにていますが、風邪の脈ほど硬く激しい相ではなく、やや早め、均一でコロコロと楽しげな雰囲気の脈です。
あるとき、腰痛の女性が来院しました。
脈を診たときに、どうも妊娠していることも考慮すべきかも知れないという勘がよぎりました。続いて腰部も診ましたが、通常の腰痛にありがちなパターンではなく、いよいよあやしい.......。まあ、あくまでも私の主観であり、「勘」の領域ですが。
「妊娠されている可能性はありませんか?」
「いいえ、まったくありません」
「そうですか。でも私の経験から申し上げれば、この感じは妊娠の初期に近いので、一応それも考慮して治療をさせていただきます」
「いいえ、絶対にありえません。でも治療の内容はお任せします」
数日後、再び来院されて
「妊娠していました。そういえば、生理もきていなかったので、薬局で買ってきたテスターでチェックしたら、陽性。昨日、病院へ行ってきました。驚きました!」
驚いたのはこっちのほうです。だってあれだけ「妊娠はない」と断言していたのですから。
腰痛は、妊娠初期の、生理的感覚だったのでしょう。
宮廷に仕える医女が主人公の韓国ドラマ(チャングム)のおかげで、鍼灸の診察スタイルを理解する人が増えた気がします。
以前は脈をとっていても、「早いですか」と、数を調べていると思っている人ばかりでしたが、最近では、「どこが悪いでしょうか」などと、脈診が鍼灸の治療方針を決める上で重要な役割を担っていると分かる人が多くなりました。
脈を診ることは、難しい技術です。
ですが、少し関心をもって取り組めば、「風邪」をひきかけたときの脈ぐらいは、だれでも分かるようになると思います。
風邪をひきかけた時の脈の感じとは、まず、皮膚に浮いた感じで探しやすいことです。手首で脈を触れただけで、はっきり存在感があります。振幅が大きく、音楽にたとえるなら、ビートの効いたロックのドラムのうようです。
正確には、風邪に限定されず、感染症の初期にみられる脈状です。
脈を調べて、そのような脈であったら、「風邪をひいていませんか?」と質問します。
大抵の場合には、本人にもすこし他の自覚症状があって、「今朝からおかしいと感じていた」などという話になります。
面白いエピソードとしては、「風邪などひいていません。まったく症状を感じない」といって帰宅したらまもなく悪寒がして、次々に風邪の症状がでてきたという人がいまして、この方は「診てもらったときには、本当に風邪などひいていなかった。しかし、家に帰ったら風邪の症状がでてきた。これは先生の所で感染したに違いないと思った」と苦情を言ってきました。
「風邪もふくめ感染症には数日から数週間の潜伏期間がありますから、帰宅直後に発症しても、先刻に感染したのではないでしょう」と説明しましたが、脈で風邪が診断できるなどとそれでも信じていないようででした。
ところで、この「風邪」というのは東洋医学の用語ですね。「フウジャ」といいます。自律神経や免疫の設定が感染症初期設定になった状態のイメージです。
「だるい」だけでも「風邪でしょう」ということになったりしますが、感染症の初期設定というイメージですから、病気を一つに限定しているわけではないのです。
つまり、風邪の脈は、風邪以外の病気の初期にもありえます。風邪は万病の元というのはこのためで、風邪を悪化させると他の病気に発展するというよりも、病気の多くは風邪と区別がつかない症状から始まるというこなのだと思います。
よって、風邪の脈が分かるということは、とても重要なことなのです。
70歳代の女性です。
数年まえに車にはねられ、打撲、下肢の骨折などの怪我を負いました。
本人の言い分では、そのときを境に、季節のわかり目などに喘息発作が起こるようになったといいます。実際に発作により病院へ通院されています。
喘息といえば呼吸系の病気です。医学的に、事故と喘息の因果の説明は難しい。
東洋医学でも、説明しろといわれると難しいのですが、臨床現場しては、「そういうこともあるのでしょうね」と肯定的な感想を抱いています。
このケースの着眼点としては、骨折、打撲、手術痕などの古傷に、圧痛や冷えがないかを最初に調べます。
もしも異常があれば、それを処理する。呼吸器だとかの前提は関係ありません。このようなケースでは、そういうことが効果につながります。
次の着眼点として自律神経の働きを調整します。この場合、発作時には呼吸系の副交感神経の抑制を念頭にします。発作を起こしていない通常の時は、過剰興奮の系統を抑制するように治療します。