病院で○○と診断されたのですが、どうでしょうか?悪くなっていますか?
患者さんとの会話で、よくあるフレーズです。
期待に反するようですが、これに厳密にお答えするなら、「わかりかねます」です。
現代において病名とは、西洋医学的な立場で病状を分析し、検査し、病名を診断したものです。
しかし、西洋医学と東洋医学とでは、本質的に見ている世界が違います。
病院で胃潰瘍ですと診断されても、東洋医学では頭で気が滞っていると診断するかもしれません。そのくらい観点が違うのです。
病院の診断がどうであろうとも、それは参考情報で、東洋医学では東洋医学の立場で体や症候を分析し、治療方針を立てます。胃潰瘍だから胃潰瘍の治療をするという単純な相関性ではなのですね。
東洋医学の立場から見えるものに対してなら「良くなった」とかいうこともできますが、他の分野(西洋医学)のことに言及することはできないのです。
ですが、患者さんの状態を東洋医学の分析をする中で、同時に西洋医学的概念でも分析しているのは確かです。
これは患者さんの「治療機会の喪失」を考慮するからです。
簡単に言えば、西洋医学を選択したほうが、メリットが大きいか、そうしなければないらないものを可能な範囲で鑑別し、患者さんがより適切な治療をうける機会を逃さないように心がけるということです。
そこで、もし、西洋医学が適切と判断すれば病院へ行くことをつよく勧めます。
参考までに、直ちに病院行きを勧めた事例(過去数年)
膝が腫れて痛む男性。所見から通常の関節症ではなく、感染による関節炎を疑い、直ちに病院を勧める。実際にそうであり、数日の抗生薬の点滴治療を受ける。
肋間神経痛といって来院した女性60代。所見から局所の骨折を疑い整形へ。実際に骨折と診断。
五十肩を理由に来院した女性。他の特異な神経所見からパ-キンソン病を疑い、病院での受診を勧める。
病院でパーキンソン氏病と診断。
背中の痛みを訴える女性。所見と既往歴から、癌の骨転移を疑い、病院での検査を勧める。実際に転移見つかる。
下肢のシビレを主訴とする中年男性。先立って病院でMRI検査を受けて、異常がないと言われてから来院。
しかし、特異な所見からMRIの検査をもっと高位からし直す必要を強く感じて、違う病院での再検査を勧める。
結果、脊髄に病変が発見されただちに入院。
私はサークルの依頼で、気功講座を行っています。
今日は、その講座へ参加している方が、患者さんとしていらっしゃいました。
前回の講座の実技の中で、とても驚いた体験をしたということがきっかけだそうです。
その方は慢性関節リウマチの方で、各関節にひどい変形があります。
本人の話によると、その実技を行う前までは、治療をしても緩和されない股関節の痛みがあったのだけれども、数分の実技を終えた瞬間に、ほとんど痛みがなくなってしまい、その後も安定しているとのことです。
さて、もう少し詳細に説明いたしましょう。
その実技で行ったこととは、自分の痛い(不快)な場所と、それに関係する経穴(ツボ)の2点を同時に意識の中でとらえ意識を向け続けると、場合によっては痛みなどがなくなるというものです。
これは私自身が、自分の不快な症状を治すのに日常的に応用し、効果を実感している技法です。
その方は、その体験と驚きを、次のように話しています。
左の股関節が痛かったので、その部分を感じながら、指示があったように、右手の親指の部分から順々に(肺経という経絡にそって)ツボに意識を向けてみました。
そうして、手首のツボ(太淵)に意識を向けたとたんに、なんだか急に眠ったような感じになって、いいえ...実際になにか夢を見ていました....とにかくボーっと変な意識状態になったのは確かです。でも周辺のことはよくわかったもいました。
それで、はい、そこまでですという声で正気に戻ったのですが、気が付くと...股関節の痛みがなくなっているので、本当に驚きました。でも、そのときにそれを言うと、他の参加者から「おかしいこと言っている」と思われそうだったので、黙っていましたが、本当にビックリです。何が起こったのでしょうか?
どういうメカニズムでよくなるのかは、よくわかりません。
暗示や催眠療法に近いと思う方もいるかもしれませんが、私はそれとも少し違うと感じています。
ただ、自分自身における体験や、このような他者への再現性によって、この技法で何かが変る仕組みがあるということに対して、確信を深めています。
痛みは、必ずしも障害を忠実に表現しているとは限らないと思います。
自身の体験として、風邪で咽喉が腫れて痛いときにこの技法をおこなったところ、腫れ(炎症)はそのままですが、痛みはすっかりなくなった経験が何度もあります。
このような例では、「腫れているから痛い」のではなくて、「腫れて」and「痛い」 のではないかと思うのです。
常識に反しますが、腫れていることと痛みがあることは別なのだと感じています。
このような話を、新潟の鍼灸師 三節さんのブログで、捻挫を例に上手に説明されていますので、是非そちらもご覧になってみてください。
http://sansetu.exblog.jp/6752649/
さて、このリウマチの方は、これまで比較的極端な治療を受けてきた経歴があるとのこと。
鍼灸の治療もうけていたようですが、それは裁縫用の太い針を刺す治療で、とても苦痛であったようです。
(裁縫用の針をつかうとは、正統な鍼灸とは言いがたいですね。そもそも裁縫用の針である真意がわかりません。ところが、現実には風変わりな治療法が人気を呼ぶ場合があるのも事実です。)
しかし今回、局所にはなにも物理的な刺激を与えることなく、意識を向けるという思いもよらぬ方法で痛みがなくなった体験を通して、今までの治療にかなり疑問を抱いたようです。
当院でもこの方に鍼を使いましたが、使用する鍼は極細で刺激は軽微。しかも、痛みの部位を直接刺激しない方法で治療を組み立てました。
痛いところへ鍼をする治療を、当たり前に受けてきた方にとっては、これはかなり意外なことだと思います。
しかし、急性の痛みならともかく、慢性の痛みに対して強力な物理刺激を繰り返し、さらに刺激がエスカレートすることは、治療というより最終的には破壊にいたるのではないでしょうか。
いくつもの方法論があり、それなりに効果があるとして、その中から何を選択するかについては、より侵襲性の少ない方法であるべきだと考えます。
鍼の技法にも、様々な方法があります。
鍼を刺す深さということだけにしぼってお話すれば、深く刺す方法もあれば、浅く刺す方法もあります。極端にいえば刺さない(接触鍼)方法もあるのです。
ところで、深く刺した場合と、浅い場合では、どちらの方が痛みを感じやすいでしょうか。
意外と思われるかもしれませんが、実は「浅い方が痛みを感じやすい」のです。
そもそも痛みというのは、痛みを感じるセンサーがキャッチして、その情報を中枢へ伝えて感じる仕組みです。
ですから、センサーがないところは痛くない。
例えば、肝臓などは痛みを感じない臓器といわれますが、肝臓の中に痛みを感じるセンサーが少ないのですね。
脳も同様で、脳の中の血管や、脳の周りの膜組織には痛みを感じるセンサーがありますが、脳細胞そのものは痛みを感じません。
話が横にそれましたが、では皮膚と筋肉では、どちらが痛みを感じるセンサーが多いのかといえば、皮膚の方が多いといえます。
ですから、鍼は浅いほうが痛みを感じる確立が高いといえます。
さて、鍼師は鍼をほとんど無痛に刺す技術を用います。これは痛みを感じやすい皮膚の浅い部分を、速いスピードで貫通して、痛みのセンサーを興奮させないようにしているのです。