宮廷に仕える医女が主人公の韓国ドラマ(チャングム)のおかげで、鍼灸の診察スタイルを理解する人が増えた気がします。
以前は脈をとっていても、「早いですか」と、数を調べていると思っている人ばかりでしたが、最近では、「どこが悪いでしょうか」などと、脈診が鍼灸の治療方針を決める上で重要な役割を担っていると分かる人が多くなりました。
脈を診ることは、難しい技術です。
ですが、少し関心をもって取り組めば、「風邪」をひきかけたときの脈ぐらいは、だれでも分かるようになると思います。
風邪をひきかけた時の脈の感じとは、まず、皮膚に浮いた感じで探しやすいことです。手首で脈を触れただけで、はっきり存在感があります。振幅が大きく、音楽にたとえるなら、ビートの効いたロックのドラムのうようです。
正確には、風邪に限定されず、感染症の初期にみられる脈状です。
脈を調べて、そのような脈であったら、「風邪をひいていませんか?」と質問します。
大抵の場合には、本人にもすこし他の自覚症状があって、「今朝からおかしいと感じていた」などという話になります。
面白いエピソードとしては、「風邪などひいていません。まったく症状を感じない」といって帰宅したらまもなく悪寒がして、次々に風邪の症状がでてきたという人がいまして、この方は「診てもらったときには、本当に風邪などひいていなかった。しかし、家に帰ったら風邪の症状がでてきた。これは先生の所で感染したに違いないと思った」と苦情を言ってきました。
「風邪もふくめ感染症には数日から数週間の潜伏期間がありますから、帰宅直後に発症しても、先刻に感染したのではないでしょう」と説明しましたが、脈で風邪が診断できるなどとそれでも信じていないようででした。
ところで、この「風邪」というのは東洋医学の用語ですね。「フウジャ」といいます。自律神経や免疫の設定が感染症初期設定になった状態のイメージです。
「だるい」だけでも「風邪でしょう」ということになったりしますが、感染症の初期設定というイメージですから、病気を一つに限定しているわけではないのです。
つまり、風邪の脈は、風邪以外の病気の初期にもありえます。風邪は万病の元というのはこのためで、風邪を悪化させると他の病気に発展するというよりも、病気の多くは風邪と区別がつかない症状から始まるというこなのだと思います。
よって、風邪の脈が分かるということは、とても重要なことなのです。