患者さんの話は必ずしも正確ではなく、とくに病院での診察の話などは、かなり曖昧になるケースが多いものです。
ですから、よくなったとか悪化したという話もかなり検討が必要です。
70歳代女性の方が、
「先生、目がよくなって、手術の必要がなくなったのです。私はこれは鍼の効果だと思います」
と会話を切り出しました。
「どんな病名だったのですか?」
「診断名は忘れましたが、年齢とともに起こる病気で、物が歪んだり、みえにくくなる症状で、眼科の先生には網膜にかぶった膜をはがす手術が必要だといわれていたのです」
現実にどんな診断名だったのかはわかりませんが、調べてみると網膜前黄斑線維症なるものが、それに近いのかなと思われます。
さて、この方は、しばらく眼科に通院されていたのですが、手術を勧められ、しかし家庭の事情で少しも入院などしていられない状況だったので、その後1年くらい眼科への通院はやめていました。
その間、1週間に1回の割合で、鍼の治療に見えられていたのです。
もっとも、目の症状を対象に治療を行っていたわけではなく、膝痛などの加療とともに、鍼灸の見地から全身的なバランスを改善することが目的でした。
そうして、1年ぶりに眼科で診察を受けたら、1年前とまったく違う所見で、手術の必要などまったくないと言われたということなのです。
患者さんが続けます。
「この1年、眼科にはまったく行っていなかったし、その間は鍼だけです。それで手術の必要などない状態に改善したのだし、最近目もよく見える。これはどのように考えても鍼の効果だと思うのです」
ご本人がそう考えていただけるならそれはありがたいことです。
確かに、そのような可能性もあるでしょうね。
私もそう受け止めたい。
でも正確には、なんともいえない。
話の材料が曖昧なので、判断ができないのです。
みなさんはどのような印象をいだかれますか?
ところで、この患者さんは、友人にこの話を随分宣伝しているようです。
こうして世間話の中に「伝説」が生まれるのだと思います。
PR